研究内容

研究内容1:胎生および成体幹細胞の未分化・分化・老化・がん化を制御する分子機構の解明


  ヒトの身体は1つの受精卵から細胞分裂により生み出される60兆個200種類の細胞により構成されています、、、と多くの教科書には書かれています。しかしそれを正しく確認した人は誰もいません。細胞が受精卵から様々な細胞に分化する「細胞分化」というステップを詳細に解析すると、未分化な細胞から最終分化細胞(神経細胞や筋肉細胞など)に至るには多くの段階が存在し、実際には想像より複雑なシステムであることがわかってきました。また最新の知見では、がん細胞など一部の異常細胞では分化プロセスが「逆戻り」する場合があることなども報告されています。我々はこのような生体における複雑な「細胞分化」のプロセスを理解することを目指し、生体における神経幹細胞およびがん幹細胞をモデルとして、「細胞分化」メカニズムの基本原理の解明と、その人工制御法の開発に挑戦しています。これらの課題にアプローチする手法として、我々の研究室では最新の生化学的・分子生物学的手法や遺伝子工学的手法に加え、後述する新規抗体作製法を開発・応用しています。

  また、本研究では細胞の持つ性質を理解するもう一つの手法として、「細胞記憶」という細胞が持つ性質着目して研究を行っています。多細胞生物の発生過程において、胚性幹細胞から分化した各種体性幹細胞は、その獲得したプログラムに従って適切な種類の分化細胞を適切な時期に生み出します。それらプログラムの基盤は細胞に刻み込まれた 「細胞記憶」であり、その形成および維持は、細胞種に固有のヒストン修飾パターンやヒストンバリアントなどのエピゲノム情報の獲得によって初めて実現可能になると考えられています。我々はES細胞から各種神経組織を分化誘導させることが可能な脳オルガノイド法を用いた解析から、哺乳類脳高次機能を支える大脳皮質の発生過程において、短時間のWntシグナルへの暴露が、神経外胚葉に“大脳皮質”神経幹細胞としての“細胞記憶”を授けることを見出しました。そこで本研究では、ATAC-seqによるゲノムワイドなクロマチンアクセシビリティ解析や、少数細胞でのエピゲノム解析を可能とするChIL法を用いた解析により、一過性Wntシグナルによる”大脳皮質”神経幹細胞としての細胞記憶形成・維持機構、またその破綻で生じるがん化を含む様々な異常の発生機構の解明を目指します(図1)。

図1. 神経幹細胞の一生

胎生期に生み出された神経幹細胞は、細胞外環境および細胞自律的なメカニズムにより未分化状態を維持もしくはニューロンを産生する。生後脳における神経幹細胞は休止状態を維持するが、各種刺激に応じて活性化し、記憶など脳高次機能の維持に関与する。またその老化は脳機能の修復に大きく影響すると考えられる。よって神経幹細胞の振る舞いを理解することは、脳の構築・維持・病態の理解にとって非常に重要な意味を持つ。

研究内容2:ショットガン法を用いた疾患細胞認識抗体の作出

ショットガン法とは非常に古くから用いられている抗体作製法の1つであり、抗原として細胞や組織などをそのまま免疫する手法です(図2)。この手法の最大の利点は、スクリーニング法を工夫することで、特定の細胞を特異的に認識する抗体や機能性抗体(分子や細胞の機能を阻害もしくは亢進する抗体)を得られることにあります。また、もう一つの利点として、タンパク質翻訳後修飾など、遺伝子発現では検出できない分子構造の変化を認識する抗体が得られることが挙げられます。しかし遺伝子発現解析全盛の現代において、ショットガンアプローチは完全に忘れ去られた手法でもありました。我々はこのショットガンアプローチの持つポテンシャルに再着目し、これまで開発を進めてきたモノクローナル抗体作製法を組み合わせ、生体内に存在する様々な細胞およびそこから生じるがん細胞などの異常な細胞を高精度で認識する抗体の作出に挑戦しています(図3)。さらにそれらの抗体を用いた異常細胞の検出センサー・デバイスや抗体医薬品開発への応用を目指します。

図2. ショットガンアプローチによる細胞・組織特異的抗体の作出法

細胞・組織を直接動物に免疫することで、それらを特異的に認識する抗体の産生を惹起する。続いて免疫動物から得られたリンパ球をがん化免疫細胞であるミエローマと融合させることで(ハイブリドーマ作成法)、免疫した細胞・組織を特異的に認識するモノクローナル抗体を得ることが可能となる。

3. ショットガンアプローチの可能性は無限大

目的とする細胞およびそれらと区別したい類似の細胞を準備することで、特定の細胞を特異的に認識する抗体の作出が可能となる。これらの抗体の利用により正常細胞の分化段階を詳細に解析したり、がん細胞の出現・残存を検出することが可能になるかもしれない。

研究内容3高親和性抗体作製技術の開発

言うまでもなく、生体組織や細胞を扱う多くの研究室において抗体は無くてはならない必須のツールです。私のこれまでの研究活動においても抗体の使用は必須であり、20年以上前から抗体を用いた組織学的および分子細胞生物学的解析を行い、多くの場面において抗体が活躍しました。しかしながら、特に組織染色においては、染まらない(染色に適していない)、汚い(特異性が低い)、そもそも目的の抗体が世の中に存在しない、といった抗体にまつわる様々な問題に直面し涙することも日常茶飯事でした。そこで私はこのような状況を打破すべく、大学発バイオベンチャーである(株)細胞工学研究所の協力を得て、齧歯類と比較してより高親和性の抗体を産性することが知られているラビットを免疫動物として用い、さらに1細胞ピッキング法やシングルセルPCR法などの分子生物学的手法を組み合わせた、新規ラビットモノクローナル組換え抗体作製法を開発しました(図4)。これらの手法は、ラビットが持つ高親和性に加え、一度に10万個以上のリンパ球をハイブリドーマの作製を経ずに処理できるという利点があります。現在はこれらの手法を後述するDNA免疫法などと組み合わせることにより、高親和性かつ高機能性の抗体の単離に挑戦しています。

4. ウサギおよびニワトリを用いた1細胞組換え抗体作製法の開発

モノクローナル抗体の作出法として、多孔チャンバーによるリンパ球分泌抗体スクリーニング法および1細胞単離技術を用いることにより、目的抗体産生リンパ球の同定・単離が可能となった。単離したリンパ球から抗体遺伝子を取得した後に発現ベクターを構築し、それらを培養細胞に導入することで目的抗体を大量に産生させることが可能となる。

研究内容4新規DNA免疫法の開発による高機能性抗体の作出

生体内で劇的な効果を発揮する免疫チェックポイント阻害剤や抗腫瘍活性をもつ抗体、いわゆる機能性抗体の登場は創薬の世界に大きな変革をもたらしたしました。一方で、これら機能性抗体の作出は難度が極めて高いことから、抗体医薬が上市に至るまでに多大な開発コストが発生しており、医療行政を圧迫する一因となっているのが現状です。また、機能性抗体の活躍が期待される生命科学研究での利用についても同様の理由から非常に限定的であり、その潜在能力を活かせていないのが現状です。そのような状況を打破する1つの方法として、前述の高親和性抗体作出法が挙げられます。しかしながら、この手法はピッキング以降が手作業の必要があり、ハイスループット解析の実現は困難でした。加えて、多孔チャンバーの特殊性から、スクリーニング抗原に細胞を使用することが出来ず、免疫抗原はペプチドやリコンビナントタンパク質に限定されるという弱点もありましたそこで我々は、抗原をタンパク質として調整せず遺伝子発現ベクターとして生体内で発現させるDNA免疫法の開発を進めました(図5)。さらに、スクリーニングの迅速化および高精度化を実現するため、マイクロ流体デバイスにより作製されるwater-in-oil型微小液滴を利用し、機能性抗体産生リンパ球をハイスループットで同定・単離し、1細胞遺伝子発現解析により組換え抗体を作出する方法の開発に挑戦しています(図6)。この試みは、機能性抗体の作出コストを激減させることで抗体作製におけるパラダイムシフトを生み出し、創薬標的膜タンパク質分子に対する新たな機能性抗体作出の起爆剤となる挑戦的研究と言えます。 

5. DNA免疫法の改良による高機能性抗体の作出

抗原をタンパク質として調整するのではなく、遺伝子発現ベクターから生体内で発現させるDNA免疫法を用いることで、複数回膜貫通タンパク質などの機能性分子を生きた細胞上で認識する抗体など、これまで作製が困難であった抗体の作出が可能となる。

6. 高機能性抗体のハイスループットスクリーニング法の開発

高機能性抗体のハイスループットスクリーニング法としてwater-in-oil型微小液滴を利用することで、迅速かつ大規模な目的抗体産生リンパ球・ハイブリドーマの同定が可能。さらに次世代シークエンサーを用いた遺伝子発現解析と組み合わせることにより、抗体遺伝子の同定が可能となる。

研究内容5抗体を用いた生体センサー(バイオセンサー)の開発


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